ニュース映画と末広旅館の女将
下山氏に似た紳士が休憩していったことを届け出た後、末広旅館の女将NFさんは、マスコミの高圧的で強引な取材攻勢や末広旅館に関する根も葉もない噂に精神的に参ってしまい、「下山さんの奥様にお目にかかって、自分の見たとおりのことを申し上げてみたい」と話していたほどだったそうです。そんななか、理研映画社という映画会社が、生前の下山氏が写っている映画を見せてくるという話が持ちかけられました。NFさんはニュース映画を観ると、彼女の目撃した紳士が下山氏本人に違いないという確信を得て、自分の見たことが間違いではなかったと安心したといいます(『下山事件全研究』p102、『生体れき断』p99)。このニュース映画を見て感想を語るNFさんの姿が、またニュース映画になったそうで、それを観た評論家の平野謙氏は、非常にリアリティを感じ、NFさんは嘘をついてはいないと考えたそうです(『下山事件全研究』p193)。NFさんが語る姿が収められているのは、「文化ニュース第一二五号」として大映系映画館に配給された「下山事件、依然として謎」というニュース映画らしいのですが(『生体れき断』p97)、残念ながら現在では観るのは難しいようです。以下に下山氏の映画を観た後のNFさんと映画会社社員との会話を引用します(『生体れき断』p98-99)。
問 この映画をごらんになって、あなたのおうちで休まれた紳士と、この映画に出てくる下山総裁は似ているとお考えですか。
答 え、いままで見せていただきましたどの写真よりも、ずっとよく似ておられるような気がいたします。このあたり(眉と鼻のあたりを指して)の感じがとてもよく似ておられます。
問 眉はいかがですか。
答 下がり眉の感じなど、そっくりです。
問 声はどうですか。
答 家においでになったときは、静かな、落ちついた話し方をされましたが、この映画では録音のせいか、音が大きいものですから、どうもはっきりいたしません。それでも全体を通じての感じは、とてもよく似ておられるように思います。
問 あなたはお宅で休まれた方を、下山さんに間違いないように思っておられたようですが、映画をごらんになって、そのお考えにかわりはありませんか。
答 いっそう強く下山さんに違いないといえるような気がいたします。映画を見せていただいて、私の感じていたことに間違いがなかったことがわかって安心いたしました。
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