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末広旅館と当時のマスコミ(2)

他殺説を前面に押し出していた読売新聞もまた朝日新聞と同様に、末広旅館叩きを紙上で展開していました。昭和24年7月14日付の読売新聞の「謎の末広旅館 奇怪な女将の言葉」という記事を見てみましょう(記事の全文は『下山事件全研究』p106、『生体れき断』p95-96でも読むことができます)。

この読売新聞の記事によると、末広旅館の女将NFさんが牧野旅館のMHさんに、1)紳士が旅館に来たときに最初に対応したのは息子である、2)紳士にはお茶ではなく水を出している、3)布団を敷くときに紳士が変に笑いながら「女の子はいないのかネ」と言った、という3点を話したとのことです。記事はこれらの事実はNFさんが警察に話したことと正反対であるとし、下山氏に酷似した紳士に関するNFさんの証言そのものの信憑性に疑問を呈しています。しかしながら実際には上記のうち1と2は警視庁が作成した調書にも記録されており、NFさんが虚偽の証言をしたという事実はありません(『下山事件全研究』p612-614)。

次にNFさんは末広旅館の女中EKさんに、1)下山氏らしき紳士は4時間も寝て行ったのではなく30分くらいで帰って行った、2)チャック付きのボストンバッグのようなものを持っていた、3)旅館のいい宣伝になると話した、と書いています。もしこれらが本当ならば紳士は下山氏は別人と断定される、と記事は続き、最後に、NFさんの証言の信憑性に疑いがあるならば、「旅館に現れたナゾの人物は下山氏とは別人と断定され、従って自殺説は根底からくつがえされることになる」と結論しています。しかし、証言をした末広旅館の女中とされているEKさんは、実際は牧野旅館の女中であり、この記事の事実確認が相当杜撰で内容自体が眉唾だといえます(『生体れき断』p96)。また、本当のところはNFさんは商売への悪影響を予期し、下山氏に似た紳士が休憩したことを警察に通報するのを躊躇していましたが、夫のNK氏が、かつて警察(特高)に奉職したことのある人間として伏せておくわけにはいかないと主張したのです(『生体れき断』p94)。

この記事の事実誤認に関して読売新聞は、その後も一切触れることも訂正することもありませんでしたが、面白いことに7月15日の毎日新聞が、EKさんは実際は牧野旅館の女中であること、読売新聞に載ったEKさんの証言内容は事実とは異なることを記事にし、訂正しています(読売新聞とは明記せず「某紙」としています)。朝日新聞の記事と同様、事実確認そっちのけでなんとかして証言の信憑性を貶めようとする、なりふり構わない記事が読売新聞という一流紙に載ったという事実のほうが「奇怪」といえるのではないでしょうか。

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