トップ > よしなしごと > Prev > ルミノールが犯罪捜査で初めて使われたのは? > Next

ルミノールが犯罪捜査で初めて使われたのは?

ルミノールというと、「日本では下山事件で初めて科学捜査に使用された」というイメージがあります。実際、下山事件関係のいくつかの文献を見てみると、「この深夜の検証は犯罪捜査のうえでは日本でもはじめてのものだった」(『謀殺 下山事件』新風舎文庫版、p164)、「このルミノール試薬による血痕検出は、日本では古畑博士が初めて行なったということであるが」(『生体れき断』p151)といった記述がみつかります。

しかし、古畑博士の『今だから話そう』を読むと、ルミノールの犯罪捜査への導入は、昭和12年2月に新潟で発生した一家殺害事件が最初だったようです。これは、一家の主人を含む家族5人全員が夜半に何者かに殴られ大怪我をし、妻と長男の二人は死亡するという、静かな田舎で起きた凶悪な事件でした。当初は被害者と思われたこの一家の主人ですが、捜査が進むにつれ、主人には女性問題があり、それが原因で妻と喧嘩が絶えなかったことなどが明らかになりました。結局はルミノールによる凶器の血痕検出が決め手となって、愛人問題で不満を募らせた主人が凶行に及んだのが証明されたということです。以下にルミノールに関する記述を『今だから話そう』より引用します(p112)。

それは、ルミノール反応という方法(またの名を化学発光検査法)で、暗室内で血のついている物体にルミノール(3アミノ・フタール酸ヒドラジッドの薬名)をふりかけると、青白い蛍光を発するのだ。それは血液だけに陽性で、その他のものにでは発光しないのである。

方法はわかったが、肝心のルミノールは当時日本にはなかった。が、幸いなことに、手に入った。さっそく、暗室内で問題のコテにふりかけてみた。果して、ピカピカ光るではないか。ことに、おもしろいのは、コテの上部の右半分と柄の上の一部が光っている。つまり、これは、コテを横にしてたたいたことが明白に裏付けされている――。

かくて、被告の正太郎は、控訴審でも十五年の刑に処せられた。

ともあれ、この事件は、法医学上、記念すべきものとなった。今日、ルミノール反応といえば、犯罪あるところ必ず登場してくるものだが、日本で初めてそれが使われたのは、この事件だったのである。

トップ > よしなしごと > Prev > ルミノールが犯罪捜査で初めて使われたのは? > Next