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『昭和史の謎を追う(下)』

『昭和史の謎を追う(下)』、秦郁彦(著)、平成11年(1999年)、文春文庫

著者は実証的な歴史家として知られる秦郁彦氏。「再考『日本の黒い霧』(上) 下山総裁は謀殺されたのか?」という章で下山事件を取り扱っています。秦氏は松本清張氏による下山事件の他殺説・謀略説の妥当性には懐疑的で、いつか下山事件の徹底的な洗い直しをしようとしていましたが、その前に佐藤一氏の『下山事件全研究』が世に出、秦氏の取り組もうとしていた問題をあらかた片付けたと考えているようです。内容は手際の良い自殺説の要約になっているとは思うのですが、基本的には『下山事件全研究』や錫谷徹氏の『死の法医学 下山事件再考』の考察をなぞるだけで、この本の他の章とは違い、秦氏自身による取材の成果や新事実の発掘がほとんどないのが残念といえば残念なところでしょうか。なお、秦氏は「法医学的所見だけで下山総裁の死を積極的に自殺を断じるのは、やや説得力が足りぬ…(中略)むしろこの領域は法医学者よりも精神医学者や心理学者の守備範囲であろう」と述べていますが、前後の文脈から考えてこの文章の意味は、「現代の法医学の水準から考えれば生体轢断だが、事故死か自殺かの判定については精神医学や心理学が必要だ」ということだろうと思います。章の最後のほうでは矢田喜美雄氏にも軽く触れ、氏の著書『謀殺 下山事件』を評して「読み物としては面白いが、本物もガセネタもゴッタ煮にしてつめこんだ感があり…(中略)雑然と並ぶ謀殺関連の情報がすべて尻すぼみに終わっているのが、この本の特色だろう」と淡々としつつも忌憚のない見解を述べています。

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