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東武鉄道優待パス

下山氏の失踪当日の午後1時45分頃、東武線五反野駅の改札に下山氏らしき人物が現れ、駅員に「このあたりに旅館はありませんか?」と尋ねています(『下山事件全研究』p68、71、75、174)。このとき、国鉄総裁の下山氏ならば持っていたはずの東武鉄道優待パスを使わずに切符を渡したのは不自然であり、したがってその紳士は替え玉だったのではないかという他殺説からの指摘があります(例えば『下山事件 最後の証言(増補完全版)』p130)。

しかし、自殺説論者で『生体れき断』著者の平正一氏は、人員整理に着手し始めたばかりで注目され、また一部には恨まれてもいる下山氏が「運輸省下山定則殿」と明記してあるパスを果たして使用するだろうかと述べています。また、改札口だけでなく、電車内でも検札がおこなわれ、身分が露見してしまう可能性も少なくなかったのです(『生体れき断』p88)。そもそも、替え玉を下山氏本人だと思わせたいのであれば、他殺説が主張するような組織ならば偽造の定期券くらいは簡単に作れるでしょう。

同じく下山氏らしき人物は末広旅館で宿帳への記帳を拒否していますが、替え玉が筆跡を残さないためにそうしたのだ、という解釈があります。しかしやはりこれも、職務を放棄して場末の宿まで来て、頭の隅に自殺を意識しているような状態のときに、著名人である自分の名前を記帳してくれと言われて素直にそうする人はいるのかと考えると疑問です。

五反野駅の改札でパスを使わなかったことや旅館で記帳を断ったことは、他殺説を支持する事実としていろいろな文献で紹介されていますが、自殺説からでも合理的な説明が可能なため、自他殺の判断材料にはならないのではないでしょうか。

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