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“血抜き”と他殺説

「法医学論争」で今後より詳しく取り扱う予定ですが、鑑定書作成者の桑島直樹氏は「血を抜いたような傷は皮膚表面のどこにもなく」、「肺臓には血液が多かった」と述べ、失血死説(血抜きによる殺害)を強く否定しており、下山氏が血を抜かれて死んだ可能性は低いといえます。では、解剖所見およびそれに密接に関係する事柄がどのように記述されているか、主要な他殺説の文献を見てみましょう。

松本清張著『日本の黒い霧』(文春文庫)p15-17

矢田喜美雄著『謀殺 下山事件』(新風舎文庫)p32-35、110、123

斉藤茂男著『夢追い人よ』(築地書館)p14-15

柴田哲孝著『下山事件 最後の証言(増補完全版)』p100-102

諸永裕司著『葬られた夏 追跡下山事件』(朝日文庫)p45、132

森達也著『シモヤマ・ケース』(新潮文庫)p52-54、74

これら他殺説の文献に共通するのは、失血死を否定する解剖所見および執刀医桑島氏の見解を完全に無視しているという点、そして下山氏の死因として失血死を主張しているという点です。なかでも『謀殺 下山事件』と『下山事件 最後の証言』はその他の所見は相当詳しく記述しているにもかかわらず、血抜き殺害説に都合の悪い部分だけは何も触れておらず、不自然極まりないといえるでしょう。特に東大法医学教室に“特別研究生”として自由に出入りしていた矢田喜美雄氏が、桑島氏の主張を知らぬはずはありません。不利な情報は徹底的に無視する一方で都合の良い事実だけをつまみ食いし、読者を魅了するような“面白い”ストーリーを組立てていくという態度は、この件に限らず他殺説文献の著者らに多々見受けられます。

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