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死体の発見と監察医の判断

7月6日午前0時25分頃轢断現場を通過した上野発松戸行最終電車運転手の情報を元に、現場に駆けつけた綾瀬駅員によって東武線ガード下付近で死体の存在が確認されました(東京都足立区五反野南町938番地先線路上)。肉付きの良い白い死体は女性のもののように見えたらしく、駅員らは綾瀬駅の助役に「女のマグロ(轢死体)らしい」と連絡しています。上野保線区北千住区長、副区長も現場に急行し、下山総裁の名刺や優待乗車券を発見するも、深夜2時15分頃に五反野南町の駐在所に状況を報告した時点では、死体が下山氏本人のものか半信半疑でした。その後駐在の巡査が実況検分中に金歯を発見し社会的地位の高い人物と判断、午前3時過ぎに現場に到着した西新井署の捜査官らとともに下山氏本人の可能性が高いと結論し、午前3時半〜4時頃警視庁にその旨を報告しました。なお、この際に列車の運行に支障があるという理由で死体の胴体部分のみ線路脇の犬走りに移されています。

午前6時、深夜から降り続く雨の中、警視庁や東京地検から総勢50名以上を動員して開始された現場検証では、鑑識課員が現場を写真に収めるとともに、約85メートルに渡って線路上に散乱していた死体や遺留品の位置を詳細に記録しました(下図参照)。おりからの大雨で、鉄路上の死体はまるで溺死体のようであったといいます。現場検証に立ち会った東京都監察医務院の法医学者八十島信之助氏は、既に轢死体を100体ほど検案しており、監察医としての経験は十分であったと思われます。八十島氏は検案の結果「他殺の疑いなし」と判定しましたが、下山氏の地位や立場、そして社会情勢などを総合的に考慮し、より詳細で確実な結果を得るために司法解剖にまわすのもひとつの手だとして、その判断を捜査陣に委ねました。午前9時には現場検証は一通り完了し、最終的に下山氏の轢断された死体は司法解剖のため東京大学の法医学教室に運ばれました。

死体散乱状況
轢断地点周辺の死体散乱状況。平正一氏著『生体れき断』より。

「えー、綾瀬川の鉄橋付近に下山さんの死体らしいものがあがったそうですが、これ、下山さんの死体ですか?」 「ええ、それは間違いないです」 「死体の模様はいかがでした?」 「そうですなあ、まあだいぶ…あー、轢死ですから。ちょっと…壊れておった」 「なんか、足首やなんか…うーん…」 「その点はですね、今日の現状の模様だけでは、直ちに自殺あるいは他殺と断ずるべき資料は、今のところないんです。まあこれからの捜査に…。ま、そういうことですな」(※インタビューに答えているのは、捜査一課長の堀崎繁喜氏の可能性が高いのではないかと思います)

参考文献

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