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『封印されていた文書 昭和・平成裏面史の光芒 Part 1』

『封印されていた文書 昭和・平成裏面史の光芒 Part 1』、麻生幾(著)、平成14年(2002年)、新潮文庫

1999年に週刊新潮に連載されたシリーズをまとめ、加筆・改訂し文庫化したもの。この本の興味深いところは、下山事件発生当時警視庁捜査一課に所属し、捜査にリアルタイムで係わった刑事たち(金井岩雄氏、杣良男氏)に会ってインタビューし、彼らが他殺という推定(捜査開始直後、捜査一課員の多くは他殺だろうと踏んでいました)から自殺の結論に至るまでの捜査と思考の筋道を丁寧に辿っているという点です。朝日新聞の諸永裕司氏は、自殺の結論が下山氏の服のポケットから出てきた烏麦のみでは根拠として弱すぎる、また烏麦を新情報のように書いている、と麻生氏を批判していますが(つまり、麻生は、現場近くで「ボーッとした感じで、視線はといえば、烏麦に向いているわけでもなく、宙を見つめていた」という目撃談と、遺留品にその烏麦があった、という金井の証言が一致したことを自殺説の根拠としているのだそれをあたかも新証言のごとく扱っていることが不思議だった、『葬られた夏 追跡下山事件』(朝日文庫)p136-139)、本書を読む限り、捜査一課は烏麦だけを決め手にしたわけでもありませんし、麻生氏がそれを新事実のように書いているわけでもありません。したがって諸永氏の麻生氏批判は根拠と正当性を明らかに欠いています。他説説の主張によって、他殺隠蔽の陰謀に加担したと考えられがちな捜査一課の刑事たちが、本書では血の通った人間として登場し、私たち読者も彼らの思考経路を辿れるという意味で本書は貴重な文献といえるでしょう。

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