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血痕群の分布状況

他殺を強く示唆する「証拠」として考えられているのが、轢断列車の進行方向とは逆の方向に轢断現場から200メートル以上に渡って枕木やロープ小屋で発見された血痕です。具体的な血痕の分布を以下に述べますが、資料によって内容が食い違う点があるので、それぞれ紹介します。

まず、矢田氏の『謀殺 下山事件』を元にすると、上り線では轢断現場から3.2〜29.75メートルまでの間に24ヵ所の血痕が見つかり(第一群)、53.8〜121.6メートルの間には米粒大の血痕が13ヵ所、荒川鉄橋渡り板でも8ヵ所見つかりました。下り線では轢断現場から31.6メートルあたりに6ヵ所(第二群)、47.2メートル当たりに8ヵ所(第三群)、72.2〜176メートルの間に米粒大の血痕が15ヵ所、192.6〜199.3メートルに8ヵ所(第四群)見つかりました。ロープ小屋の柱や扉からは17ヵ所に血痕があったということです。

上記の枕木と荒川鉄橋の血痕の数を足すと82になりますが、矢田氏は「マークされた採取点は八十三ヵ所」だったと書いています(p170)。いずれにせよロープ小屋を除いて80以上の血痕が見つかりましたが、うまく採取できたのは52ヵ所で、そのうち血液型判定に必要な量があり、かつベンチジンによる反応を見せるものは枕木で27、ロープ小屋で12の合計39ヵ所でした。これら39の血痕のうち、人血と判定されたのが下り線から11、上り線から10、ロープ小屋から8の計29ヵ所。それらのうち血液型が判明したのは下り線ではA型が5、AM型が1、AMQ型が1で、上り線ではA型が2、AQ型が1、AMQ型が2、ロープ小屋ではA型が1、AM型が1、AMQ型が1でした。「人血」というのは、人の血だということは判明したものの血液型は調べられなかったものです(下表参照)。

血痕分布表1

次に『資料・下山事件』の矢田氏の証言を見てみましょう(p505)。矢田氏は「これら血痕中A型だけ認められたもの十四ヵ所、A型のM型とわかったものが三ヵ所、A型のQ型だけわかったもの二ヵ所、A型のMQ型というのが二ヵ所ということが判明しました。下山さんの血と同じとみられるAMQ型はシグナル付近の上り線から二ヵ所、AMはロープ小屋の扉からそれぞれ出ています。」と述べています。この証言では上り線と下り線の区別をしていないので、まとめて「枕木」として下の表にまとめました。また、血液型が調べられなかった人血については言及されていませんので表には「人血」の欄はありません。上の表と比べてもらえれば分かるように、同じ矢田氏の述べていることにもかかわらず、かなり食い違いがあることが分かります(下表参照)。特に興味深いのはロープ小屋からはAMQ型の血痕は検出されていないことになっている点です。『下山事件全研究』の著者、佐藤一氏はかつて下山事件研究会に所属し、『資料・下山事件』の編集に携わりましたが、その際「AMQ型の血痕はシグナル付近とロープ小屋からみつかった」という事実の確認を矢田氏に求めたところ、「ロープ小屋の血痕はAMであった」とわざわざ訂正してきたとのことです(『下山事件全研究』p425-426)。矢田氏自身の筆による、訂正された原稿の写真も『下山事件全研究』で見ることができます。したがって、『資料・下山事件』での矢田氏の証言は勘違いなどではないと思われます。

血痕分布表2

時間は前後してしますが、中央公論の昭和26年1月号に掲載された矢田氏による「下山総裁の血の謎」という記事を見てみましょう。随分古い記事ですが、このときまでには血痕の検査は全て終了していました。この記事によると、次の表のようになります。この記事には血痕の全データは28だったと書いてありますが、合計すると27になり、ここらへんも計算が合いません。しかし、細かいミスには目を瞑ったとしてもやはり上のふたつの表と結果が異なっています(下表参照)。

血痕分布表3

最後に古畑氏の『今だから話そう』の図を見てみると(p233)、枕木上の血痕で人血と判定されたものが7、A型が4、AM型が2、AMQ型が2の計15ヵ所、ロープ小屋ではAMQ型が1ヵ所で合計16ヵ所となっています。下の図は、『今だから話そう』の図を参考に改変したものです。血痕の分布と血液型も表としてまとめましたが、やはり上の3つの表とかなり違うことがわかると思います。重要なはずのAMQ型の血痕の数も、矢田氏の著作や証言内容と食い違っていることには疑問を感じます。

『今だから話そう』血痕分布図

血痕分布表4

以上のようにきっちりと事実を確認するのも難しいのですが、線路とロープ小屋に多数の血痕群があったのは確かで、これは犯行グループによる下山氏の死体運搬時に滴り落ちたものではないかと他殺説の論者は強く主張しました。

朝日新聞記事
ルミノールによる血痕検出を伝える朝日新聞の記事(昭和24年7月28日付)。

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